イ・ジョンウンさんと言えば、韓国ドラマ好きの方ならば知らない人はいないでしょう。
名脇役として着々とキャリアを築いてきた韓国女優で、大ヒット映画「パラサイト 半地下の家族」では家政婦役を演じ注目を浴びました。
2024年には、ラブコメドラマ「Missナイト & Missデイ」でなんとヒロインを演じ、大きな話題となっています。
今回は、そんなイ・ジョンウンさんの経歴やお薦め作品についてご紹介します。
イ・ジョンウンさんは、1970年1月23日 ソウル特別市生まれの54歳(2024年現在)。
ドラマデビューは43歳という遅咲きですが、名脇役俳優として知られ、年間5本以上の作品に出演することもある引っ張りダコの女優です。
もともとは舞台出身で、1991年に「真夏の夜の夢」でデビュー。
その後長い下積み時代を経て、最初の転機となったのが、2008年のミュージカル「洗濯(パルレ)」への出演でした。
その時の演技力が高く評価され、演劇界で注目を浴びることとなりました。
その後、2009年の映画「母なる証明」に出演したことを機に、ポン・ジュノ監督の作品にたびたび出演。
演劇やドラマに映画など幅広く挑戦を続け、着実にキャリアを積んでいきます。
お茶の間での認知度も上がり出した矢先、2019年「パラサイト 半地下の家族」が世界的大ヒット。
家政婦役を怪演して強烈なインパクトを残しました。
それ以降は、数々のドラマや映画で引っ張りだこ状態になり、今や大物脇役女優としてなくてはならない存在です。
ドラマデビューが43歳頃、また「パラサイト」で大ブレイク時は50歳手前という、遅咲きのイ・ジョンウンさんですが、40歳までは、アルバイトをしたり、同業の俳優仲間からお金を借りたりして生計を立てていたそうです。
今の活躍ぶりからは全く想像できませんね。
演技の指導やスーパーでの醤油や青汁の販売など、多くのアルバイトを経験したそうで、その経験は現在の演技の糧になったと言います。
韓国の俳優志望者は、演劇のメッカと言われる「大学路」へ行き様々な舞台で観客の前に出て実力を磨くと言われます。
そしてイ・ジョンウンさんは、その「大学路」で20年余りを過ごした典型的な大学路出身女優です。
1991年から始まった彼女の初期の大学路生活は、舞台の上ではなく、助演出としての活動が主でした。
劇団で小道具制作を担当していたところ、演出家から助演出の話を持ちかけられ、スタッフとして活動することになったのです。
助演出を引き受けるときに、彼女は「三回助演出を務め上げたら、役者として出演させてほしい」という条件をつけました。
そして約束どおり、彼女は三本の作品で助演出を務めた後、舞台に立つことになりました。
それ以来大学路で舞台活動を続けていた彼女は、2000年の映画「不朽の名作」で映像演技に挑戦しますが、カメラ恐怖症のため大学路に復帰してしまいます。
しかし、あきらめずにカメラ恐怖症を克服するため、舞台演技の合間を縫って30本余りの短編映画に出演しました。
イ・ジョンウンさんは、これまで多くのドラマで作品を盛り上げる「オンマ役」や「アジュンマ役」を演じてきたので、オンマ的なイメージを抱く人が多いと思います。
そんな彼女が今、新たな注目を浴びています。
名脇役として知られてきたイ・ジョンウンさんが、なんとラブコメの主人公に抜擢されドラマ「Missナイト & Missデイ」でヒロインを演じているのです。
2024年公開の本ドラマは、夜は20代、昼は50代に姿を変えてしまう女性と、ハイスペックなイケメン検事のロマンティック・コメディーです。
イ・ジョンウンさんが演じるのは、検察庁にシニアインターンとして務める50代の中年女性。
即ちこれは昼の姿で、見た目は50代であるものの中身は20代という設定。
若者トレンドに精通し、時にはダンスまで披露するエネルギッシュなその姿は、本当に20代女性が中に入っているかのようです。体を張ったパワフルかつコミカルな演技が見事です。
名脇役のポジションから、ついに54歳にしてラブストーリーのヒロインになったイ・ジョンウンさん。
「人生まだまだこれから」という強いパワーを分けてもらえます。
イ・ジョンウンさんが出演した人気ドラマや映画の中から、おすすめの三作品を選びご紹介します。
一作目は、2022年公開の「私たちのブルース」。
いつもにぎやかな済州島を舞台に、この島で生きる人たちが織りなすさまざまな物語をオムニバス形式で描いています。
「主役と脇役を区別せず、自分の人生においては誰もが主人公である」というノ・ヒギョン監督の意図のもと、約15人の登場人物たちがエピソードごとに主役と脇役を行き来しながら、ドラマ全体の物語を完成させていく構成になっています。
朝から活気あふれる済州島の魚市場で働く人々を中心に、その友人や隣人に家族らのありふれた日常と、迫られる人生の選択や決断を描いており、老若男女に起きる出来事は、つい自分のことのように感情移入し、共感を呼びます。
本作でイ・ジョンウンさんは、初恋に憧れを抱いたまま、家族を養うために必死に働き続ける、鮮魚店の経営者の役を演じています。
髪を少し茶色く染め、大きなお尻をジーンズに入れて、魚を捌き包丁片手に怒鳴り声をあげる姿が格好いいです。
二作目は、2019年公開の「椿の花咲く頃」。
「最高の愛」などで知られる「ラブコメの女王」コン・ヒョジンさんが主演し、小さな町を舞台にした心温まるコメディです。
KBS演技大賞では、コン・ヒョジンさんの大賞受賞をはじめ、他12の賞も獲得。
また、百想芸術大賞でも9部門中4部門を受賞するという快挙を成し遂げました。
ラブロマンスあり、コメディあり、サスペンスまでもあるという、さまざまな要素と豊かなキャラクターたちが絡み合い、見ていて飽きがきません。
にもかかわらず、しっかりと作り込まれた世界観のなかに、じんわりと心が温まる人間愛が注ぎ込まれ、多くの要素が詰め込まれても決してドラマが破綻しません。
本作でイ・ジョンウンさんは、なんと認知症のおばあちゃん役を演じていますが、違和感がありません。
そして厳しい目線を娘に向けますが、その厳しい態度の奥には娘に対する謝罪の念と深い愛情が込められている、という難しい役を見事に演じきっています。
三作目は、2019年公開の映画「パラサイト 半地下の家族」。
半地下の家に住む貧困家族が裕福な家庭を次第に乗っ取っていくブラックコメディです。
カンヌ映画祭で、韓国映画初となるパルム・ドールを受賞したほか、アカデミー賞4冠を達成しました。
本作品では、住環境、就職活動、雨と洪水、誕生日パーティーの各シーンで、裕福な家庭と貧しい家庭の対比と風刺を通して、社会的な格差と階級間の断絶を鮮やかに描き出している点に感心します。
顔立ちが地味で、背丈も低めですが、メイクや服装でかなり雰囲気が変わるため「七変化女優」と言われるイ・ジョンウンさん。
本作品でも家政婦だと気が付くには、かなり時間が経ってからでしょう。
しかしその存在感は圧倒的で、彼女無くしては成り立たないと思わせます。
いかがでしたでしょうか。
今回は、「国民のオンマ」と呼ばれる日も近い、名バイプレーヤーのイ・ジョンウンさんについてご紹介しました。
「パラサイト 半地下の家族」で、助演女優賞を総なめにしたのちは、広告出演依頼が殺到しているとのことで、今や女優人生の絶頂期を迎えていると言っても良いでしょう。
どんな役柄を演じていても記憶に残る、脂ののった彼女の今後の演技も楽しみですね。